【CoachingWorld】A New Point of View 新しい視点

コーチングワールドICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください

今回は、2014年5月号から、松本郁美氏に翻訳いただきました「A New Point of View 新しい視点」の記事を御紹介します。


CoachingWorld ISSUE10 February 2014
A New Point of View
新しい視点
A New Point of View

「何かが閉ざされたとき、別のどんなものがあなたの中で花開こうとしているのでしょうか。」

Abby Tripp HeverinはICFの広報担当でありCoaching Worldのコンテンツ編集および組織の広報戦略実施に携わっている。今後、CWへの投稿に興味がある方は、彼女宛に bby.heverin@coachfederation.org までEメールを送付ください。

エレナ・エスピナル博士(MCC、メキシコ)は、困難をチャンスに変える経験を何度もしてきている。南アメリカでコーチ業界のパイオニアとして、エレナはコーチングに対して懐疑的な、あるいは怖れさえ抱いているような人たちの考えを変えようと粘り強く取り組んできた。今、20年以上の年月を経て、彼女は直近の新規開発事業で、視覚障害者が、これまでにないタイプのコーチングプログラムを通して障害をチャンスに変えられるよう支援をおこなっている。

白衣からコーチングへ

著名な歯科医の両親をもつエレナは、父親が自分たちと同じ道を歩むよう彼女に助言するまでは、医師になろうと考えていた。歯科医のトレーニングを終えた後、エレナは病理学の分野へと進み、修士号と博士号を取得し、研究者としての業績をあげ、数々の賞を獲得した。

エレナの父親が他界してまもなく、彼女の職業人生を方向転換させる出来事が起きた。
「ある日の午後、私は研究室で生検をしていました。ある若い女性から切り取った細胞組織を見ていて、そこには胸部の悪性腫瘍が確認できました。」とエレナは振り返る。「検査を終え、その患者が検査結果を聞きに部屋に入ってきました。その時、初めて彼女を目にしました。『2分後には、彼女は自分の余命がたった5年であることを知ることになる。もちろん、彼女には子どもも夫も両親もいて、将来設計もある。』検査をしているときには、そうしたことは何一つ気にかけていませんでした。私は自分が間違った方向に進んでいたことに気づきました。世の中から隔絶されて、人々の痛みや苦しみから切り離された、『科学』とか『研究』などと呼ばれる洞窟の中に私は身を潜めているのだと。それを機に、私は変わっていきました。」

エレナは新たなプロフェッショナルとしての航海に乗り出し、存在論的コーチングの研究およびジョン・F・ケネディアルゼンチン大学で心理学の修士号取得などを実現していきました。エレナの関心はコーチングにありましたが、1980年後半から1990年代初頭にかけての南アメリカは、成長産業に対する風当たりが厳しい時代でした。「当時、心理学の専門家の中には、コーチングを受けた人が変わっていくので、コーチングを魔術になぞらえるような人が出始めていました。」と彼女は当時を振り返る。「しかし、私はその状況はブレークスルーをもたらすチャンスだと捉えていました。」と彼女はジム・セルマンとパートナーシップを組み、後にアルゼンチン文部科学省が初めて認可を出すことになるコーチ養成プログラムを共同設立したときの決意を語った。「今や、魔術コーチングは、この国で法的に認められたのです」と彼女は冗談を言う。

心の目で見るということ

エレナは、アルゼンチンでTeam Workというコーチングビジネスを立ち上げて10年経ったところで、そのコーチングモデルをメキシコに持ち込みTeam Powerという会社を立ち上げた。Team Powerの顧客リストには、アメリカンエクスプレス、ブリストール=マイヤーズスクイブ、コカコーラ、ノバルティス、ソニーなど様々な分野の有力企業が名を連ねている。

しかし、エレナの考えと気持ちを一番大きく占めているのは、Team Powerの最も小規模な顧客だ。2006年に設立された「感情の目」という意味を表すOjos Que Senten(OQS)は、視覚障害を持つ人々が自身の持っているスキルに着目し、社会的、職業的、教育的な環境に参加するよう促し、障害を乗り越えられるよう支援することで、彼らのものの見方が変わるのを働きかけている非営利団体である。この名前は、視覚障害者に写真を教えるという写真家のジーナ・バデノーチェがこの団体を設立した当初の理念に由来する。写真という媒体は視覚的だが、写真に収めるという行為には、視覚以外のすべての感覚が働く。OQSの感覚写真ワークショップは、参加者が創造的になり、写真を通じて物語を語り、個人としても職業人としても新たなスキルや能力を開発するための足場を提供している。

OQSは感覚写真ワークショップを発展させて、職業訓練、(視覚障害者に対する)社会の認識を高めるイベント、会社や組織に対する包括的トレーニングなどを提供している。「OQSのスタッフはTeam Powerのことを知っていて、私たちがゲーム開発や会社組織でのチームコーチングに実績があることも知っていました。」とエレナは説明する。「OQSから協力依頼があり、私たちは惚れ込んでしまったのです!OQSがやっていることも、その方法も大いに気に入りました。」

しかし、OQSが会社や組織に提供できるようなトレーニングプログラムを開発していく道のりは、エレナとチームにとって厳しい現実を突きつけられるものだった。「彼らがそうした会社や組織に出向くときは常にコーチが同行しなければなりませんでした。」と彼女は言う。「私たちは、自分たちこそがOQS関係者の能力を制限しているのだと気づいていました。彼らは私たちのせいで大きく成長できなかったのです。そのときに、私たちは彼らをコーチとして養成する可能性を、つまり、彼らが私たちと同じプロコーチとなる機会を提供する可能性を考え始めました。」

A New Point of View新たな視点

Team PowerとOQSによるトレーニングプログラムの第一期受講生は、ICFクレデンシャル取得を目的として組まれた養成プログラムを修了し2014年1月に卒業する予定だ。 ICFのコーチング定義、倫理規定、コアコンピテンシーに基づいた養成プログラムの開発過程は、トレーナーが印刷物やパワーポイントのような補助教材を使わずに教授する方法を学ばなければならず、Team Powerにとっては、それが、受講生と同じくらいの大きな学びになった。

そして、成果は目覚ましいものだった、と彼女は言う。「私たちは特定のモデルに頼るのをやめ、心から教え、自分の気持ちを信頼するようになりました。それは素晴らしい冒険でした。」

エレナと同僚たちは、視覚障害を持つ受講生らが彼ら特有のスキルと能力を使ってコーチングで会話を展開していることに気づいた。「彼らには私たちが知らなかったり、使わないような空間に耳を傾けています。」と彼女は回想する。「彼らは相手の身体の位置によって距離を感じ分け、さらには動き、感情、声の変化をも感じ分けているのです。私たちが学んだことは、彼らは、私たちとは違う傾聴を使ったコーチングができるということです。」

さらに受講生たちによって、エレナの対面コミュニケーションに対する見方が変わったと言う。「ここの受講生のおかげで、感情は顔の表情にこう現れるはずだと私たちが堅く信じている思い込みが打ち破られました。彼らの目には全く表情がないので、私たちは別のやり方で感情を読み取らなければならないのです。」

何よりも、エレナは生徒ひとりひとりの成長に感銘を受けたと言う。「受講生の全員が幼少期もしくは大人になってから視力を失いました。人生の中で、目が見えていた時期が必ずあったのです。受講生らは何もないところから可能性を探ってきたのです。そのため、私たちが現状に留まるのを正当化するためによく使う言い訳を、彼らはものの見事に見抜けるのです。」

エレナは、この14人のコーチが、そしてこの先、彼らにトレーニングを受ける受講生らが、新たにプロの道を歩み始めたときに、彼らの生き方は間違いなく大きく変わるだろうと言う。「多様性が助力になるという理解を会社や組織の側に持ってもらいたいのです。私たちが育てたコーチは、障害を持つ人だけでなく、人とは違うものの考え方や振る舞い方をする人すべての心を開くことができるでしょう。彼らなら、会社や組織の人々に対し、人が心から聞いてほしいと思うような質問を親密感、理解、共感をもって聞き出せるよう支援できるでしょう。さらに、彼らの存在そのものが、実現可能性を示す好例となるでしょう。何かが閉ざされたとき、別のどんなものがあなたの中で花開こうとしているのでしょうか。」

上の写真:Team PowerとOjos Que Sientenのコーチング養成クラスの第一期生はみな視力を失った人たちです。右の写真:Ojos Que Sientenの感覚写真ワークショップを修了した視覚障害者が撮影したコーチ養成クラスの公式集合写真。

【翻訳 ICF日本支部 フレンズ 松本郁美 氏】
Originally written in English by Abby Tripp Heverin
Coaching World, Issue 10, May 2014, pp.18-20
http://icfcoachingworld.com