【CoachingWorld】倫理と基準 ~道具箱から~

コーチングワールド ICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください

今回は、2015年11月号から、大森隆氏に翻訳いただきました『倫理と基準 ~道具箱から~』の記事を御紹介します。


コア・コンピテンシー #1
倫理ガイドラインとプロフェッショナル基準に合わせる

コーチングのあらゆる状況下で、コーチングの倫理と基準、そして適切に対応する能力を理解しましょう。

 

倫理と基準 ~道具箱から~
Core Competency #1
あなたはアドバイスしますか?
 あなたのクライアントが難しい局面で選択を迫られています。彼女は単刀直入に「それで、私はどうすべきだと思いますか?」と尋ねてきました。この記事では、神経科学、コーチング倫理、重複する役割と責務といった異なる観点から、考え得る答えを見つけていきます。

脳全体を機能させる
 我々コーチは、クライアントは自分自身の答えを持っており、コーチの役割は彼らの知恵が現れる場を創ることだと信じています。アドバイスをすると、クライアントの自律が損なわれます。コーチがアドバイスをするのは、クライアントが解決策を持っていない時です。持っていなえれば、答えることが出来ないのです。2009年にジャン・B・エンゲルマン、C・モニカ・カプラ、チャールズ・ノサール、グレゴリー・S・バーンズが例証した財務助言と意思決定の関係に関する研究によると、アドバイスを受けているときの脳は「(不要なものとして)処分」しているのです。アドバイスを受けている間、脳は何も考えなくなり、目の前で与えられているアドバイスは(視覚や聴覚を司る)脳の新皮質に留まることはありません。結果として、遅れて記憶に留まることもあるかもしれませんが、全く残らない場合もあるのです。コーチとしては、クライアントの脳は完全に機能していてほしいものです!アドバイスをすることは、そのほとんどを脳の理性的な部分に訴えかけています。しかし、脳が完全に機能しているクライアントなら、意思決定をするときに感情や知覚の脳機能も使っているはずです。すべての脳が完全に機能していない場合、クライアントが非倫理的な決定を下す可能性が急激に高まってしまいます。
 プロとしてあなたは、コーチの役割を果たすこともあれば、一人の人間として、もしくは一人の専門家としての役割を果たすこともあるでしょう。特定分野の専門知識を持つあなたがあなた自身の意見を訊かれたとき、クライアントに具体的なアドバイスをするのではなく一般的なコメントをすることもできます。例えば、退役コーチであるダリア・ナカー(PCC)は彼女のクライアントにこう言いました。
「これは以前そうなったのを観た話ですが・・・」
「人々が・・・できて、そしてうまくいったということを私は聞いたことがあります」
あるいは「時々ある人は(こんな方法)をしたり、別の人は(あんな方法)をしたりすることに私は気づきました」、と。
クライアントが経験の中から気づきを得て解決策を掴み取るような、あなたの話を学びの経験にし続けるのです。例を挙げると、「話す前には気づかなかったけれど、今のあなたにとって明らかになったことは何ですか?」や、「この情報(あるいは視点)はどのように役立ちますか?」と質問するのです。

重複する役割を使い分ける
 クライアントに与えるアドバイスが、クライアントの最善の利益を得るためなのか、それとも自分のエゴを満たすためのものなのか、プロコーチとして我々は自らに問いかけるべきです。価値ある意見をもらえて、誰もが敬意を払われていると思いたいし、そしてICFの倫理規定にはクライアントにアドバイスしてはいけないとは特に書かれていないのです。しかしながら、ICFの倫理規定では、重複する役割が原因となって関係が混乱していないかをチェックするよう、コーチに強く求めています。コーチングの会話中に役割を変えることが不適切であり、困惑を生み、非倫理的でさえあるかもしれないのです。重複する役割を持つ人は、明確な境界線を確保するように、クライアントとの関係に対して一層の注意を払う必要があります。

フランクのジレンマ
 フランクは熟練の社内コーチであり、人事マネージャ―も兼務しています。彼は勤めている会社が2,3か月後に数名をレイオフ(一時解雇)する予定であり、その数名の中に彼のクライアントが含まれていることを突然知らされました。フランクはコーチとしての役割を全うするのか、または人事マネージャ―としての役割を果たすのでしょうか。彼はコーチの立場から身を引くのでしょうか。このような混乱に対して会社の決まりはどうなっているのでしょうか。コーチであるあなたがこの2つの役割を明確に切り分けていたとしても、クライアントは困惑するかもしれません。あなたが担っている役割は、常にクライアントにはっきり示さなければなりません。
 もしクライアントがあなたのアドバイスを求めてきたら、自分の考えに関心を持ってくれていることをクライアントに感謝することを忘れないでください。そしてコーチとしてアドバイスしないということを説明しましょう。遂行するための実行可能な手段や、求められていることを提案できる人をリスト化するブレインストーミングのパートナーとなり、クライアントに情報源を見つけさせましょう。このリストの中には素人あるいは専門家としてのあなたが含まれているかもしれません。あなたが(相談分野の)素人であれ専門家であれ、自分の意見を伝えると決めたら、コーチングのミーティングとは別の時間と場所で行いましょう。プロコーチの役割ではなく、一個人として回答すれば、(立場の違いは)明らかになるのです。

ソフィアの例
 公的事務官であるソフィアは、自分のプログラムの運命を決める重要なミーティングがあることを自分のコーチに伝えました。自分のコーチがマネージャの経験があり、戦略的ミーティング・マネジメントに関するコースを教えていることも知っていたので、彼女にいくつかの戦略的なアドバイスを求めたのです。すると、コーチは次の3ステップの提案をしてきました。

  1. 最初にこの状況に関するコーチングをソフィアに行う。
  2. 1週間後、別のミーティングにて、コンサルタントとして助言を与える。このコンサルティング・ミーティングはコーチング契約とは分けて新たな契約の基で行うこと。
  3. コーチはソフィアに、短期および長期的な観点で、価値と有効性の点で2つのミーティングの価値の違いを見極めるように伝えた。

ソフィアはこれら3つのステップに同意し、その後に彼女はコーチング受けていている時が最も有益な時間であったとレポートしました。そして彼女は次のように言っています。「私にとって重要な問題について自分自身でどのように考えればいいのかを理解しました。難しい局面では様々なことを勘定に入れて考えることが重要だと学びました。長期的には、コンサルティングと較べてコーチングはもっと役立つものであることは明白です。」

マルセラのジレンマ
 フィナンシャルプランナーで、資格を持ったコーチであるマルセラは、フィナンシャル・マネジメントの責任を果たすことに集中していたアンをコーチングしていました。会話は社会的に責任のある投資の話へと話題が移りました。アンはマルセラに社会的責任のある投資としてどの会社が手堅いかを尋ねたのです。数週間後、マルセラとアンは投資の情報交換のために会いました。マルセラがお勧め案件を話した後、アンは彼女のアドバイスに従い、そして損をしたのです。コーチであるマルセラがアドバイスをしたのか、それともフィナンシャルプランナーであるマルセラがアドバイスをしたのか、アンは思い出せるでしょうか。アドバイスをするのは、我々の仕事の一部ではありません。にも関わらず、コーチはコンサルタントでもあるといった根拠のない作り話や誤解や思い違いが存在するのです。アドバイスをしたり、自分の意見を伝える場合には、それがクライアントの価値や考え、物事の見方にどの程度合致しているか必ず確認してください。アドバイスを言明しないように。アドバイスする動機が、あなたが与えたいからなのか、それともクライアントが必要としているからなのかをよく考えましょう。もしクライアントが求めたなら、決断力や勇気は理性でなく、深く考えることから生まれるということを確認しましょう。

責務に関する覚書
 あなたがコーチとして回答しないことを明確にするように努めたとしても、それでもなおクライアントの記憶や認識はゆがめられるものです。プロとして回答した瞬間、責任を負っているということを意識しましょう。クライアントがアドバイスを受けたと思ってしまったら、実際にあなたが回答したかどうかは関係なく、クライアントがとった行動に対する責任をあなたに負わせる可能性があります。あなたの仕事はクライアントの気づきを増やし、責任範囲を広げることです。ですから、次回クライアントが「私はどうすべきでしょうか?」と言ったなら、返事をする前に一旦立ち止まり、考えましょう。


著者情報
テリーE・ベルフ, MCC
テリーEは1987年以来パーパスフル・コーチングのリーダーであり、五大陸にまたがりパーソナルとプロフェッショナル・コーチング、コーチング・トレーニングとメンターリングを提供している。彼女は人生の目的やスピリチュアルに基づくICF認定のコーチトレーニングを提供するSuccess Unlimited Network社の創業者であり、代表です。著書には、”Coaching With Spirit”(Pfeiffer, 2007)や”Facilitating Life Purpose”(Purposeful Press, 2005)、シャーロット・ワードとの共著 “Simply Live it Up”(revised edition, Purposeful Press, 1997) がある。コーチング業の礎となった最初のICF承認・認定・継続学習コミッティ―を起こし、議長を務めた。テリーEへのコンタクトは、 coach@belf.org .
詳しくは www.belfcoach.com と www.wrinklewisdom.com へ。

マイケル・マークス, 教育学博士, PCC
マイケルはエグゼクティブ、ビジネス、ライフ・コーチングのスペシャリストです。コーチングの実践倫理の重要性を唱えることでコーチング業界の発展に従事しています。課題に対する彼の熱意で書き上げた”Ethics and Risk Management for Christian Coachies”(Christian Coach Media Group)がまもなく発売予定です。またICFのEthics Community of Practiceに積極的に参加。プロフェッショナル・クリスチャン・コーチング協会による認定プロフェッショナル・ライフコーチであり、現在はそこで倫理を教えています。またクリスチャン・コーチ・ネットワーク・インターナショナルの認定プロフェッショナル・クリスチャン・コーチであり、今も団体の代表を務めています。リージェント大学の成人教育の博士号、ルイジアナ大学モンロー校のMBAを取得。詳しくは www.blazingnewtrailscoaching.com にて。

【翻訳 大森隆
Originally written in English by Teri-E Belf, MCC and Michael Marx, Ed.D., PCC.
Coaching World, Issue 16: November 2015.
http://icfcoachingworld.com