【CoachingWorld】マインドフルネスの時代へ

コーチングワールド ICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください

今回は、2016年8月号から、松川美保氏に翻訳いただきました『マインドフルネスの時代へ』の記事を御紹介します。


マインドフルネスの時代へ
マインドフルネスの時代へ

優れたリーダーには欠かせないのがマインドフルネスだ。しかしながら、大勢の人々がその流行のあおりを受けマインドフルネスを誤って解釈しているのも事実だ。瞑想のテクニックを教える流行りがそのいい例だ。
“マインドフル”という言葉自体が誤解を招いているともいえる。本来、マインドフルネスとはマインドフルの状態の解明を意味する。しかしながら、言葉だけをとらえるとマインドフルとは常に頭がいっぱいで集中できない状態を指す。このためその状態を解決することに焦点があてられている。また、マインドフルとは頭を空っぽにすることではない。それではマインドレスネスになってしまう。

マインドフルネス、とは気づく力である。身の回りで何が起こっているのか、あるいは起こっていないことは何か。自分の生理的・情動的・知的な感覚に深く気づくことだ。人は認識力が高まるとよりよい決断をするものだ。他者への共感が増し、そして自分の価値観や信条に沿った行動を起こすことができる。自分の中で起こっていることと身の周りで起こっていることを結びつけ易くなり、状況を探求し理解に至る。よって、マインドフルネスには洞察力と知力を喚起するための時間と場所のスペースが必要である。
他者がよりマインドフル(より深く認識している状態)になるよう支援する際のポイントは:

  • マインドフルになれる環境をつくること
  • より深く自己を認識する力を磨くこと
  • より深く観察する力と聴く力を磨くこと
  • 直観を使い推理すること

マインドフルになれる環境
オフィスで仕事をしていると、集中して考える時間を確保することは簡単ではない。静かに考える場所を確保できたとしても電話やメールに邪魔される。また、具体的な課題を解決するために静かに考える時間を確保するということはあっても、より広い視野をもつためにそのような時間をもつことはない。
このように、意識することなく過ごしていると自ら探求し注意をはらうことで得られる情報を得る機会はなく、目の前の情報だけにとらわれ決断をすることになる。
もっとマインドフルになるためには、先ず習慣的に思考する時間を確保することだ。そうすることで沸き起こる強い感情や、優先すべき重要事項、そして新たな気づきをあらためて観察することができる。ただ、最初から多くのことをやろうとし過ぎると、得られる気づきは限定されてしまう。よって、先ずは仕事中に2回以上の“マインドフルネス・シンキングタイム”をもつことで観察が可能となり効果を得られるであろう。
コーチが使える質問としては:

  • 一日に何回立ち止まって、自分の言動とその瞬間に感じていることに目をむけているか?
  • 忙しい時に、静かに内省できる場所(実際に身をおける場所)はどこか?
  • マインドフルネスの時間をしっかり確保するにあたり、周りの協力を得るためにはどうすればよいか?

自己認識力を向上させるために
自己認識力をつけはじめる段階で心理測定テストというものは役に立つが、知らず知らずにマインドフルネスを損ねることもある。
このようなテストにおいて、自分の行動・態度・特性・優先事項などを示されると、脳はそれを“認識・終了”する傾向にある。しかしながら、人の態度や行動は状況や環境にも影響されるため、心理測定テスト結果ほど単純なものではない。より高い自己認識力を実現するための概要にすぎない。心理測定テストはあくまでも自己の態度や行動、そして私たちをとりまく世の中の動きと互いの関わり合いを観察する基本部分においてのみ役立つからだ。
心理分析テストを何度も受けその結果をたくさんもっていたとしても、その多くのマネージャーやリーダーは、自己認識力に欠ける幸せ者、と揶揄されることがある。
自己認識力磨きには時間がかかり、また内省する高度なスキルが必要である。その三つのスキルを段階的に紹介する:

  • 行動へうつす前に内省するスキル(動く前に自らの言動を考える)
  • 行動をしながら内省するスキル(自ら起こしている言動を自覚し、それが自分と周囲にどのような影響を及ぼしているか、言動しながら認識する)
  • 行動後に内省するスキル(起こった出来事を振り返り次のことを意識すること:思考・行動のクセ・相関関係・原因と結果・コモンコーズ[2つのものごとが同じ原因で生じている状態。それら自体が原因と結果として結びついているようにも見えるが実際にはそうでない状態]・学習)

コーチは、クライアントがそれぞれの段階においてしっかりと振り返ることを支援することができる。どのようなスペース(空間・時間)をつくっているのか?沸き起こる強い感情や身体的に感じるもの、思い込みや意志をどのようにして気づいているのか?どのようにして周囲で起きていることや他者の内面で起きていることに気づいているか?ねらいは、クライアントがよりマインドフルネスを習慣化できるよう、クライアント自身の認識力に対する意識づけをすることだ。
自分のトリガーポイント(自己の気づきを高めるあるいは低下させる刺激)を知ることも必要なことだ。気づくことを意識的にするのと思慮深く考えた結果の気づきには違いがある。
瞬時に内省できる(In-the-moment reflection)ようになるには先ず思慮深く考え気づくこと。そうすると、立ち止まり一歩引く、という感覚を認知することができそれに反応することができる。
この段階で、クライアントが自問できることは:

  • 今、私は何を感じているのか?
  • どのような強い感情やモヤモヤをかくそうとしているか?また、何が私にそうさせているのか?
  • 今の私にとって本当に重要なものとただの阻害要因となっているものは何か?

クライアントの気づきを促す、コーチからできる質問:

  • 仕事において、最も手応えがあり力を発揮できている時とそうでない時はどのような時ですか?
  • 自分の行動で、意義のあることをしていると感じる時とそうでない時はどのような時ですか?
  • どのような時に八方ふさがりと感じますか?またそのような状態から解き放され自由を感じる時はどのような時ですか?

観察と傾聴
傾聴には少なくとも五つの聴き方がある。その中で最もマインドフルネスに関連する聴き方をあげる:

  • 聴き手が話し手の内容をどのように聴いているかを理解する聴き方
  • 話し手が話すのと同時にその内容の意味をどのように聴いているかを理解する聴き方
  • 話し手の言葉や文脈を超えてその真意に耳を傾け、広くとらえる聴き方
    ここであげた聴き方は、話し手のボディーランゲージや声のトーン、そして会話では表面化していない非言語的要素を聴きとるのだ。

注意すべきことは、自分の思考や瞬時に沸き起こった感情に流されるような聴き方にならないことだ。そうならないように、このように自問してみよう:

  • 無意味に関連付けや比較をしていないか?
  • 個人的な見解や基準で判断していないか?
  • 話し手にとって大切なことよりも自分が重要だと思っていることを優先して聴いていないか?

相手のものの見方やその人がその意味を見出すことに配慮することは、更なる気づきを促し、共感が高まる。そしてそこにはホンモノの対話が実現される可能性が生まれる。
くり返すが、クライアントは思考する時間を設け、環境を変えてみることで(例えば散歩をしてみる)このようなスキルを身につけることができるようになる。
次のようなルールをつくるのもいいだろう:“自分の考えを共有した時には相手の意見も求める”
あるいは、好奇心を湧き立てるようなこのような問い:“この人は自分にはないどのようなユニークな考えや知識をもっているのだろう?”
物事を広く観察するには全ての感覚を研ぎ澄ましている必要がある。このような能力を鍛えるマインドフルネスのトレーニング方法はたくさんある。マネージャーが比較的取り組みやすいものとしては、普段は流してしまうようなことに意図的に気づくよう促すことだ。すなわち、馴染みのあることをあたかも初めてのことのように探求すること。“今まで見落としていたことであらためて気づいたことは何?”と自問することで自分自身と身の周りの物事に対し洞察する力が芽生えるのだ。
コーチとして使える質問は:

  • 会議の中で、いつ・どのように一歩引いて観察する間をつくりますか?
  • 静かに立ち止まるために何ができますか?

直観と推理
直観の捉え方には大きく分けて二つある。その一つは、過去の経験に基づくもので本来、無意識あるいは本能的に瞬間的に理屈抜きに理解しそれに反応する思考行動。もう一方は、特別な経験を共有した相手と脳波がシンクロし、同じような思考から得る直観だ。
多くの人がこのような体験をしたことがあるであろう。
合理的な考えや決断をする上で情動的に良し悪しを判断していることは神経科学的でも証明されている。直観力を鍛えるには次のようなことも効果的だ:

  • 日頃から直観を使っていることを理解する。(例えば最近の出来事を例にとり、どのようにして難しい場面において決断したかを振り返る)
  • 直観力を試してみる。例えば“私は・・・・を感じ取れている?”と自問してみる。“私は今ここで起こっていること以上のことを感じている”と言葉に出してみる。
  • 純粋に直観がはたらいた時と、その反対に自分の中の恐怖や願望がはたらいた時の経験を振り返る。

人は自分の直観を認知し試すことで軽率、あるいは無謀な決断をあらためることができるようになる。
直観力はもはや闇雲に反応する力ではなく、意識的につくりあげるものだから。

結論
言うまでもなくこの記事に書かれていることはコーチにもいえることだ。マインドフルネスになると、自己認識が高まりクライアントとの関わり合いが深まるのだ。コーチがマインドフルネスの手本となることでクライアントがマインドフルを学ぶのである。


著者情報
デイビッド・クラッターバック
デイビッドはデベロップメンタルコーチング及びメンタリングのパイオニアであり、ヨーロピアンメンタリングアンドコーチングカウンセルの創設者の一人でもある。
コーチングカルチャーやチームコーチングに関する書物の第一人者であり、60以上の著書を執筆している。3つのビジネススクールで教鞭をとり、またアッシュリッジの職員であり、メンタリングやコーチングのグローバルネットワークであるコーチングアンドメンタリングインターナショナルの責任者を務める。

【翻訳 松川美保】
Originally written in English by David Clutterbuck
Coaching World, Issue 19 August 2016 p22-24 Moving Towards Mindfulness
http://icfcoachingworld.com