【CoachingWorld】社内コーチング文化の浸透で、人材育成を推進

コーチングワールド ICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください

今回は、2016年11月号から、田中チズに翻訳いただきました『社内コーチング文化の浸透で、人材育成を推進』の記事を御紹介します。


社内コーチング文化の浸透で、人材育成を推進社内コーチング文化の浸透で、人材育成を推進

グラクソ・スミスクライン(GSK)社は、イギリスに拠点を置く世界有数のヘルスケア企業で、150カ国以上で営業活動を行い、医療用医薬品、ワクチン、コンシューマー・ヘルスケア製品の3領域で事業を展開しています。GSKが導入している社内コーチング制度は、職種や等級を問わず各国の社員に広く認知され、2010年度の開始以来、現最高経営責任者(CEO)や次期CEOを始めとする経営陣からも大きな支持を得ています。さらに、このコーチング制度の導入により、6,600万米ドルの投資利益率(ROI)を生み出したという事実は驚きに値します。

持続可能なコーチングモデルを構築

2010年頃のGSKでは、コーチングに費用を投じつつも、利用は受動的で責任の所在も不明確でした。その一方で、変化を巻き起こし現状を打破できるような人材を惹きつけ、育成し、保持するための具体的な制度導入の必要性を経営陣は強く感じていました。このような背景から同社では、事業に変革と成功をもたらす戦略的なツールとして、コーチング制度の再構築を行いました。現在では、GSKの人材育成、リーダーシップ、組織開発戦略にコーチングが不可欠な存在となっています。
GSKは、全世界でのプログラム導入を推進するために、一貫した水準と倫理規定を有する国際コーチ連盟(ICF)に支援を求めました。まず、高水準の社内コーチング制度を全世界に導入することを目指し、「ザ・コーチング・センター・オブ・エクセレンス (CoE)」を発足しました。この組織の役割は、より容易なコーチングへのアクセス、高品質かつ効率的なコーチングの維持、コスト面を抑える創造的なアプローチなどの領域から、各国で実施されるコーチング制度を標準化することです。GSKからの予算はなく、各ビジネス・ユニットからの資金調達でこの組織を支援しています。各組織のリーダーシップやコーチ達は、「CoE」を持続可能な組織だと考えています。2016年度「ICF 国際プリズム・アワード」にノミネートしたエイドリアン・マションPCC(GSKの社外コーチ)は、「CoEは高品質なコーチングによってビジネスを支援する制度で、効率化、厳格さ、規模、創造性などでコスト面を管理していくモデルを採用しています」と語ります。
アジア・太平洋および新興市場担当のロジェリオ・リベイロ シニアヴァイスプレジデントはこのモデルについて次のように述べています。
「もし本社が予算を負担していたら、私自身を含む経営陣はROIの測定に躍起になることでしょう。コーチング制度とは、本社から予算が出ているから利用するのではなく、必要性があるからこそ使うべきもの。コーチングが次世代リーダーの育成につながると心から信じることが大切です。」
GSKのコーチング制度は、200人以上の外部コーチ、1,000人以上の社内コーチの他、コーチングスキルを持つ約1万6,000人のマネージャーやリーダーが支えています。外部および社内のエグゼクティブ・コーチはすべて有資格者で、そのほとんどがICFの認定コーチです。また「ジョブ・プラス・コーチ(JPC)」と呼ばれる社員コーチもボランティアでコーチングを行っていることが特徴です。これらの「JPC」は研修を受講し、その後、同僚へのコーチング・セッションを講師が審査する資格試験にパスしています。また、四半期毎の指導やコーチング・セッションの定期的な評価などを通じて水準を維持しています。GSKのリーダーシップは「JPC」を組織や社員にとって有益なものだと考えています。このボランティア制度によって、大多数のコーチングを勤務時間中に行うことができます。またJPCメンバーにとっても、他のコーチやマネージャー、リーダーと同様の自己開発の機会を得ることができます。GSKは「JPC」の価値について公にも語っており、それに倣って同様のコーチングモデルを導入する企業も増えてきています。

次世代リーダーを社内で育てる

リーダーシップもコーチング制度を強力にサポートしており、6割を超える経営陣が定期的にコーチング・セッションを受けています。コーチング部門シニアヴァイスプレジデントのサリー・ボニーウィル PCCは次のように述べています。
「コーチングはリーダーシップも多いに支援しており、この制度について彼らもオープンに意見を交わしています。彼らはコーチング制度を、事業の成功のためだけでなく、最高の自分になりたい社員を支援するためのものだと考えています。治療や矯正ではなく、社員のさらなる成功をいかに支援できるかという位置づけです。」
リーダーシップ達はコーチングの価値を確信しており、エグゼクティブ・コーチング・プログラムも推進しています。アンドリュー・ウィッティ CEOは、最高責任者級の次世代リーダー育成強化プログラム「エンタープライズ・リーダーシップ」を導入しました。これは、将来的に最高責任者に就任する可能性を持つリーダーを対象とし、1年半のエグゼクティブ・コーチングが含まれたプログラムです。過去に同研修に参加したリベイロ氏は次のように述べています。
「シニア級の社員自身が、よりよいリーダーになるという自己実現のためにコーチングを行っています、と宣言することには強いメッセージ性があります。この取り組みは当社の組織開発に大きな影響を与えていると思います。」
次期CEOに指名されているエマ・ウォルムズリー氏は、2017年3月にGSK社初の女性CEOとして就任予定(2016年11月時点)。彼女は、コーチング、スポンサーシップや対話を通じて女性管理職の割合を増加することを目的として発足した女性活躍推進プログラム「アクセラレーティング・ディファレンス(AD)」の出資者3名の1人でもあります。ウォルムズリー氏は次のように述べています。
「組織のあらゆる階層で女性が活躍することは、社内で模範的な女性社員と関わる機会が増えるということです。キャリア形成の将来像も描きやすくなるでしょう。また、コーチングやメンター制度に触れる機会が増えるほか、職業人、個人としての人生の中で多くの女性社員が直面する課題について、実践的なガイダンスを提供することができる取り組みだと考えています。」
今年度は220人が参加する「AD」には、12回のコーチング・セッション、6日間の半日グループコーチング・セッション、シニアリーダーによるスポンサーシップが含まれています。マションPCCはプログラムの内容について次のように述べています。
「ADプログラムでは、自信、存在感、遂行力、影響力、課題への取り組みなど様々な領域のスキルを学んだ後、それらすべてを融合して実践する実力を習得することができます。」
GSK全体の昇進率は女性社員26%、男性社員27%である一方で、2013年度に「AD」を受講した約46%の社員が最低でも一ランク上への昇進を果たしています。また従業員定着率は、同プログラムを受講していない女性社員が69%、男性社員が71%である一方で、同プログラムの受講者の定着率は76%となり、離職を防ぐ効果も証明されました。さらに「AD」を受講した管理職の効率性は、対照群の管理職グループの2.1%と比較して3倍以上も高い(7.7%)という結果が出ています。プログラムを受講したあるコマーシャル・シニアヴァイスプレジデントは、次のように述べています。
「コーチングのおかげで、自分自身のポテンシャルを最大限に発揮する方法がより明確になり、私の人生が変わりました。キャリアの中盤でコーチングを知ったので、もっと早く知っていればと感じています。」

各国に広がるコーチング制度

文化的背景も異なる様々な地域へコーチング・プログラムを導入することには課題も伴いますが、GSKは、組織内の全社員がコーチングを体験する機会を享受できるように取り組みを続けています。ボニーウィル PCCは次のように述べています。
「コーチングで構築されるのは上下関係ではなく平等な関係。私達は、事業目標を達成するという目的に、コーチングがどれほど大きな影響を与えるかということを体感してもらうサポートをしているのです。時間と労力をかければそれなりの効果はすぐに現れます。ただ、メンター制度やコンサルティングとの違いや、長期的かつ持続的な成長というコーチングが持つ高い効果が腑に落ちるまでには、相当の時間がかかるものです。」
新しい職責に就いた外国人社員が文化的な問題に直面することもあり、GSKはコーチング制度による課題解決のサポートも提供しています。前述のリベイロ シニアヴァイスプレジデントが現職に就任した際、ブラジルからイギリスへと赴任した頃の課題が実例です。新しい役割や職責に慣れようとする一方で、文化の違いを感じていました。そして、異文化の中で新たな業務を遂行するためにコーチングを活用して発想の転換を行うことにしました。当時の体験についてリベイロ氏は次のように述べています。
「それは素晴らしい体験でした。異なる文化的背景を持つ私ですが、現在ではグローバル戦略に貢献することができていると感じています。」
リベイロ氏のようなリーダーを支援していくため、GSKのコーチング・プログラムは躍進を続けています。全組織に体系的にコーチングが浸透し、コーチングの活用率はなんと2,900%も増加し、社員のやる気はますます高まっています。ボニーウィル PCCは次のように述べています。
「リーダーシップの効率性という本来の趣旨に加え、社員のやる気や満足度にも非常に高い波及効果が出ています。ICFのガイドライン『ICFコア・コンピテンシー』を活用する、認定コーチを使う、コーチングの水準を維持するなどの注意点を守れば、コーチングは全社員におすすめできる有用なプログラムです。シニアリーダーからの応援も不可欠なので、シニアリーダーや経営陣からのスポンサーシップも非常に重要です。」


高い効果を持つコーチング制度を表彰
グラクソ・スミスクライン(GSK)社は、2016年度「ICF 国際プリズム・アワード」の受賞企業。国際コーチ連盟(ICF)は、キャリアコーチング分野で先進的な企業を表彰していたICFトロント支部の取り組みを発想に、2005年に同アワードを開始した。プリズム・アワードは、企業規模や業種を問わず、キャリアコーチングへの様々な貢献を称えて授与される。2016年度の受賞候補企業は48社。世界中のICF会員と認定コーチで構成された審査委員会が、以下の評価基準から厳正に審査した:測定可能な影響度/厳格な水準の維持/ 主要な戦略的目標の達成度/ 企業文化への貢献度

【翻訳 田中チズ】
Coaching World, Issue 20 16, November 2016 p20-22 Creating a Coaching Culture for Better Talent, 2016 Prism Award Case Study
http://icfcoachingworld.com