【CoachingWorld】在ることの作法

クライアントやクライアントになろうとしている人は関心を向けて欲しいし、聴いて欲しいと思っています。そして、クライアントが元々持っている考える力を信じることで、行動へと導かれます。コーチはプレゼンス&コーチング・コミュニケーション(コーチング・スキルを使ってクライアントと共にいること)によるプロセスによってクライアントと共にいます。ICF はコーチングの際にコーチはどうすべきかを示すとても有効なコンピテンシー(能力)のセット(コーチングのコア・コンピテンシー)を作成しました。でもどうすればコーチは、クライアントが内在する自己の力及び創造する能力の可能性を感じることができるような信頼感と一体感の場をファシリテートできるのでしょうか?

コーチとしてのあり方はクライアントにとって人生を描き、設計する白いキャンバスのようなものです。白いキャンバスとしてのあり方を鍛える方法としてリレーショナル・プレゼンスがあります。リレーショナル・プレゼンスは人前で話す恐怖感を解決する為にスピーキング・サークルズ・インターナショナル創始者のリー・グリクステイン氏によって考案されました。リレーショナル・プレゼンスは人前で話す恐怖感の問題を解決するだけでなく、クライアントの思い込みにとらわれることなくクライアントを完全に受け入れ支援する、コーチとして真にクライアントと共にいることができる能力を鍛えることに有効です。

心地よいリレーショナル・プレゼンスの実践は優しい意識とともにゆったり聴く知性の空間における探求活動です。この手法はコーチとして必要な二つのコアになる作法、呼吸法とアイ・ゲイズ(優しい眼差し)を含みます。

呼吸する

呼吸に意識を向ける作法は穏やかで集中した心の状態を得る為に行われる多くの瞑想の真髄です。ところで、人とコミュニケーションする毎に何度位呼吸に意識を向けているでしょうか? 呼吸は直接的に神経系に働きかけ脳幹の活動を落ち着かせることが知られています。呼吸を意識することで、クライアントにも情報を処理する機会を与え、前向きな自己意識への創造を可能にさせます。

オードリー・シーモア(MCC)は、「呼吸は空間を埋めようとするものではなく、クライアントに安心感とひらめきを得る間(ま)を与える。クライアントは呼吸の間を持つことで静寂の空間から何が現れようとしているのかに気づく機会を得る。」と言っています。

倉田隆弘氏(ACC)は、クライアントと向き合った時、呼吸法を次のように使うと言っています。「呼吸と共に訪れる沈黙にとても価値を感じます。深く呼吸をすることでくつろぎと安心を感じ、クライアントに対して心が開いた状態になります。音楽に例えると、コーチングはオーケストラではなくジャズ・セッションのようなもの、それは準備されたシナリオ通りに演奏するのではなく、化学反応のようなものです。コーチングを何年間経験してもセッションの前には不安が訪れます。そんな瞬間に呼吸を意識することで『私は OK、そしてクライアントを受け入れる準備ができている。』と言う状態になることができます。」

呼吸法はクライアントが示す怒り、深い悲しみやシンプルな平穏と言った感情の起伏と共にコーチがいることを支援します。またコーチが呼吸することでクライアントにも呼吸を促し、自分が何を言ってしまったかを受け入れ、そこから動くことができます。

アイ・ゲイズ(優しい眼差し)で繋がる

共にいる事の二つ目の作法はアイ・ゲイズ(優しい眼差し)、視線を合わせることです。コーチングでは対面または、ビデオ会議でアイ・ゲイズが可能です。アイ・ゲイズによって安心感や信頼感を高める作用を持つ社会的結合ホルモンであるオキシトシンが分泌されると言う研究があります。また、ステファン・ポージズ博士は恐怖を与えないアイ・コンタクトによって社会との関わりを持つことを推奨しています。その活動は自然に起きうる攻撃・逃避反応(
戦うか逃げるか反応;火事場の馬鹿力的反応)に対するブレーキの役割を果たし、心拍数を下げ、安心して繋がる気持ちを起こさせます。アイ・ゲイズを使うことでクライアントを招き入れ、クライアントはコーチがありのままの自分を完全に受け入れている状態であることに気づきます。

野田パメラ氏(PCC)は、「私の全身がアイ・ゲイズ(優しい眼差し)になります。それはクライアントへの無条件な受け入れです。全てのクライアントがすることは私に目を向ける事です。そしてクライアントは自分が受け入れられている事を認知することができます。アイ・ゲイズの作法を身に付けることで、たとえ電話を使っていてもあたかもクライアントと対面しているかのようにクライアントを受け入れ続ける事ができるようになりました。」と述べています。

アイ・ゲイズは積極的に繋がろうとすることではありません。むしろ人と人の間の自然な繋がりを受け入れると言うことです。グリクステイン氏は、「我々は脳を再配線することに関与します。私は、幼い頃人に注目される度に萎縮し不安を感じるように脳の神経経路が配線されました。しかし、このリレーショナル・プレゼンスの実践により、人に注目されることで喜びと広がりを感じるようになり、非常にパワフルな神経経路を新たに作ることができました。」と述べています。

リレーショナル・プレゼンスの真髄である呼吸法とアイ・ゲイズの組み合わせはクライアントに抵抗感を持たせる事なく、帰属感と受容感、そして真剣に聴いて貰えたと言う気持ちをもたらします。グリクステイン氏曰く「一人の相手と話していても、部屋全体と話していても、この作法で聴く事に優先順位を置くことができれば、話すペース、考えるペースは聴衆と自然に同期するというシフトが起きる、つまり繋がり、フローを経験するということである。」


著者情報
ティナ・マーテル
ティナ・マーテル氏(M.A.、PCC)は20年以上に渡りクライアント自身や相手とのより良い関係性作りの支援を行ってきました。彼女の書籍「Meaningful Coaching」では、コーチの価値感がICF コア・コンピテンシーを使う時、どう影響するか、そしてコーチの価値感とICF コア・コンピテンシーの相性について焦点が当てられています。マーテル氏はスピーキング・サークルズ®の認定ファシリテーターとして相手と共にいるリレーショナル・プレゼンスを使って人々を支援しています。


【翻訳 倉田 隆弘】
Originally written in English by Tina Mertel
Coaching World, January 5, 2018 A way to be
https://coachfederation.org/a-way-to-be/

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください