【CoachingWorld】健全なコーチング・プレゼンスの構築

ICF認定資格のPCC又はMCCのコーチはもちろん、同資格を取得予定のコーチであれば、コーチングにおいて「コーチをする(do)」のではなく「コーチで在る(be)」ことの大切さを心得ているはずです。

コーチはそれぞれのクライアントの異なった個性や価値観・世界観に寄り添えるだけの注意深さをもつことを求められます。この注意深さをもった状態を、「コーチング・プレゼンス」と言います。

コーチング・プレゼンスとは、言語的であれ非言語的であれクライアントが言わんとしていることに注意を注げるかということです。

プレゼンスが欠如していると、クライアントの話に深く耳を傾けることはできませんし、
クライアントとパートナーとなることも、パワフルで広がりのある問いかけをすることもできません。傾聴、パートナーシップ、オープン質問の欠如は、本来のコーチング・カンバセーション(対話)からかけ離れたコーチングを招くと言っても過言ではないでしょう。

コーチがひとたびプレゼンスの重要性に気づき始めると、「健全なプレゼンスを手に入れるにはどうしたらいいだろう?」と絶え間なく思うものです。

意図が注意深さを生む

コーチに意図があれば、それが心の眼となり、着目しなければならない点へ導いてくれます。
つまり、コーチの興味のあることへ関心の注意が向くのか、あるいはクライアントの言わんとしている事を受け取ることに注意を向けることができるのか、はコーチの意図次第でどちらか一方に傾きます。

例えでみてみましょう。
新人コーチのボブはセッションを始めるにあたり、次のような意図をもって臨みます: 「クライアントの置かれている状況を解決するためにできることは何か?」
このような意図は、限定的な聴き方をまねき、ボブは解決策とみなすものだけに注意がはたらくスペースしか持つことができないでしょう。

ボブよりもコーチ歴の長いクララの場合はどうでしょう。
彼女は、「クライアントが置かれている状況を、自らの力で乗り越え成長するためには?」という意図をもってセッションに臨みます。このような意図のはたらきによって、クララは制限することなくクライアントへ注意を注ぐことができ、こうしてクライアントは自身の知性に気づき、置かれている状況を乗り越えるに必要なスペースを得ることができるのです。

無理にでもなく、また理解したふりをすることもなく、本当に心からこのような意図をもつには、コーチは次の二つの素質を発達させ深めていくことが必要です:

  • 信じること:コーチとしてキャリアを始めたころ、私は先ず自分自身を信じることを学び、経験を積む中でそれに加えてコーチングのプロセスを信じることを学びました。私は自分を信じる力を向上させ、クライアントの知性を重んじることができてはじめて驚くようなセッションを体験するようになりました。クライアントの人生においては本人こそが誰よりも賢い、ということを心に留め、コーチはクライアントから教えてもらおう、くらいの気持ちを持つことです。
  • 好奇心をもつこと:コーチからクライアントへの最高のプレゼントは、純真無垢な子供のような高い好奇心だと身をもって学びました。コーチが好奇心をもってクライアントの世界観を理解することで、彼ら自身が物語を変えることのできる主人公だと感じさせることができます。純真な好奇心とクライアントの知性を信じ切る心が融合するたびに、現状を乗り越え成長する力をクライアントへ与えることになります。

ソマティック・シンキング (Somatic Thinking)が限りない注意深さを生む

ソマティック・シンキングは、コーチが自らの身体感覚に気づき、それをコーチングに活用するものです。私は、長年の経験の中でこの考えにたどり着きました。
みなさんもご自身の経験や数々の研究発表から既にご存知かもしれませんが、言語による表現は、クライアントが伝えたいことのわずか7%しか占めていません。残りの93%は身体的なパターン、身体感覚から現れる(ソマティック)な振る舞い、エネルギーの移り変わりや情動で表現されます。つまり、クライアントから次々に現れる、膨大な非言語的要素によって表現されています。このような多量な情報をコーチがどのように処理するか、更に深く理解するためにボブとクララのケースに戻ってみてみましょう。

ボブの意図がはたらくことで、彼の認知プロセスは下記のような流れをたどると考えられでしょう:

  1. 感じ取る: 言葉や声のトーンを限定的に聴き、視覚から入るシグナルにある程度気づく。
  2. 思考がはたらく: 「解決の糸口は?」「クライアントを助けなければ」「自分は良いコーチングをしているのだろうか?」のような次から次に迫る思考に気をとられる。
  3. 実感する:ボブが理解したつもりになっている内容、コーチとしての責任感、そして自分に対する疑念をもちながらも解決策に至ったかのような実感を得る。

このような状況下では、多くの場合コーチはいっぱいいっぱいの状態になり、頭が真っ白。これではPCCのコーチングンスキルレベルからは程遠いものになるでしょう。

一方、クララはどうでしょう。クララがもつ意図と彼女が自身の身体感覚に気づくことで、彼女の認知プロセスはソマティック・シンキングへ移行します。ソマティック・シンキングにより感覚と情動が融合し、クライアントに対し限りなく注意深くなれます。

  1. 感じ取る:クライアントの言葉・視覚から入るシグナル・声のトーン・身体的パターン・エネルギーの移り変わりやそれ以上のものをクララは全身で聴く。
  2. 実感する:クライントから伝わり感じ取ったものがクララへ響き情動が湧く。
  3. 思考がはたらく:クララ自身が感じ取ったものや抱いた感覚に対し、クライアントがどのように受け取るか好奇心をよせる。

クライアントから伝わるものをしっかり感じ取りながらコーチが自身の情動に気づき、そのことをオープン質問や見聞きした内容と合わせ共有することがソマティック・シンキングの本質です。このプロセスは、正しく意図を持ったうえで高めていけば健全なプレゼンスをもたらし、無理のないコーチングセッションが実現され、コーチングスキルをMCCレベル、またはそれ以上へ押し上げるでしょう。


著者情報
セイマー・ハッサン、MCC
セイマー・ハッサン(MCC)は、多言語を扱うエジプト系イタリア人。彼の仕事や人生は、4大陸・3言語に及ぶ文化、習慣、信条に影響を受けている。
セイマーは、15年に渡り個人やリーダーの能力開発に取り組み、結束力の高いチーム作りとコーチ・メンターを育てている。人間の可能性を広げるセオリーを熱心に学び、30年間武道に打ち込む中で、心と身体をつなげレバレッジすることが目覚ましい変化を生む最短かつ最もパワフルな方法であることに気づく。身体感覚をコーチングやリーダーシップに活用するコーチング・メソッド、「ソマティック・シンキング」はこの気づきから生まれた。詳しくは、www.KunCoaching.com


【翻訳 松川美保】
Originally written in English by Samer Hassan, MCC
Coaching World, April 3 2018, Building a Robust Presence
https://coachfederation.org/blog/building-robust-presence

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