【CoachingWorld】神経科学からモチベーションを理解する:クライアントは恐れているのか、またはシャットダウンしているのか?

人が恐れを感じ、励ましを必要としている状態なのか、または事実上シャットダウン状態(神経学的には限界の状態)に陥っているのか。神経学はこの両者の違いを認識するために役立ちます。クライアントが無力と感じる時、それは選択肢がほとんど無い状態でしょうか?あるいは追い詰められた状態でしょうか?

トラウマの専門家であり、“Waking the Tiger, Trauma and Memory and In an Unspoken Voice”の著者であるピーター・レバイン(Peter Levine)氏は、動物が生命の危機にさらされるあらゆる場面での動物的反応を長年研究してきました。全ての哺乳類は、生命の危険を察知すると生理的な反応を起こすものですが、動物は私たち人間よりもそれに対応する力に優れています。私たちは、思考する能力に優れているが故に必要以上に考え過ぎ、やがてバーンアウトしてしまうのです。

追いつめられると、闘うことや逃げることの術を失います。つまり、神経学でいうとシャットダウンの状態です。身体がシャットダウンするこの状態は、生物学的にはトカゲから進化する過程で引き継がれたもの(なごり)です。トカゲは、身をシャットダウンすることで酸素の無駄な消費をおさえています。哺乳類にとって、酸素がなければ血液がつくられません。よって、生命の危機に直面した時を踏まえ、シャットダウン機能を備えておく必要があるのです。

クライアントが“狸寝入り”をしている可能性は?

哺乳動物でシャットダウンの名人といえば、フクロネズミです。その他哺乳動物同様、フクロネズミは捕食者を察知するとシャットダウンし死んだふりをします。捕食者は、“死んだふり”をしているフクロネズミには興味を失い他の獲物を探すでしょう。分からない振りをすることを、私たちは“狸寝入りする”と表現することがあります。

人間がシャットダウンの状態に陥ると、頭が真っ白になり自分のことを「愚か」に思うかもしれません。「私には太刀打ちする力はない」「これ以上やっても意味がない」「私は愚かだな」のような否定的な独り言で更にシャットダウンすることもあるでしょう。

クライアントは、このような独り言を心に秘めているかもしれません。
クライアントがなかなか繋がりを感じられず、コーチングの関係性から距離を置く場合、否定的な独り言、またはシャットダウンしている可能性があります。シャットダウンの状態を察知する力とそれに対応する力がないと、コーチ自身がフラストレーションや限界を感じ始めるでしょう。

コーチは、どうしたらシャットダウン状態と、リスクに対し臆病になっていて励ましを必要としている状態を見分けることができるのか?

見分けるためには、モチベーションの低いクライアントとのやり取りの中でコーチは自らの身体反応に気づくことが大切です。この身体反応を認識する力は、ニュアンスをくみ取る際に役立ちます。

通常、クライアントに自信が不足している場合、コーチは支援したいと願うものです。クライアントの求めに応じ励ますことができると、コーチは恐れを抱いているクライアントの役に立ったと感じるでしょう。
一方で、クライアントのシャットダウン状態に対し、コーチ自身が不安になる、または攻撃的な感情を抱くこともあるでしょう。しかしながら、コーチ自身がこのような自らの感情を注意深く意識せずにいると、押し寄せる自らのシャットダウン状態に気づくこともないでしょう。
コーチのシャットダウンは、混乱やバーンアウトという形で現れる可能性があります。

コーチの辛抱する力に影響を及ぼすクライアント

クライアントがシャットダウン状態に陥ると、コーチは不安になり辛抱することが難しくなることがあります。シャットダウンした状態は、危険のサインであり、コーチがクライアントの切羽詰まった状態に巻き込まれることもあります。それにより、クライアントに対し気が短くなり辛抱強く接することができなくなります。

生命の危機にさらされた時に起こる、“闘争または逃走”反応はシャットダウンよりも良い選択肢なのです。闘争または逃走できれば、シャットダウンするよりも生き延びる可能性が高まるのです。シャットダウンはやがて死に至るのです。コーチがシャットダウン状態にあるクライアントと関わる場合に、悩みのあるクライアントをその状態から無意識に救い出そうとして、自らが闘争または逃走モードに陥ってしまうかもしれません。

シャットダウン状態にあるクライアントは、自分自身だけではなく私たちコーチにさえも攻撃的になることもあります。レバイン氏は、人は闘争または逃走モードになることでシャットダウンの状態から抜け出す術として身体が覚えていることを教えてくれています。悶々とした状態からひとたび目覚める時、私たちは“勢いよく”その状態から抜け出します。フクロネズミが死んだふりをして捕食者から身を守るように、闘争または逃走することは素早く身を守る術といえます。
コーチがモチベーションのなかなか上がらないクライアントの中で起こっていることを理解し、クライアント自身の神経系反応について気づかせることは、クライアントが無力さから抜け出すための大きな一歩です。クライアントのシャットダウン状態に気づくことが私たちコーチの“闘争・逃走・シャットダウン”モードに陥ることの防止になるでしょう。

教育が啓発をもたらす

クライアントの神経系が柔軟に機能している場合、クライアントを励ますことは恐れの克服に役立ちます。コーチが、クライアントのシャットダウン状態に気づくことができれば、励ますことだけに頼る以上にクライアントを教育出来る事となるのです。

全ての哺乳類共通に機能する神経系の働きについてクライアントを教育することは、霧を晴らし悶々とした状態から抜け出した時の興奮を静めることに役立ちます。生命の危機を感じるほどの出来事に対し、身体で起こることを説明することで、クライアントはそれが普通であることを知り安心するでしょう。再びクライアントが道筋を立て、成功に向け歩み出す自由をみつける助けになるコーチが、理解のあるコーチと言えるでしょう。


著者情報
ディー・ワグナー
ディー・ワグナー(LPC, BC-DMT)はカウンセラーであり、米国アトランタにてダンス・ムーブメント・セラピストとして25年の経験があります。2017年ICFコンバージでは神経系機能をテーマに発表し、ICFブログでもお馴染みの存在です。その他記事を以下に掲載しています:American Journal of Dance Therapy; Body, Movement and Dance in Psychotherapy; Voices: the Art and Science of Psychotherapy (American Academy of Psychotherapists); Elephant Journal and Asana International Yoga Journal.
ディー・ワグナーは、ワークブックNaked Online: A DoZen Ways to Grow from Internet Datingの共同制作者でもあります。


【翻訳 松川美保】
Originally written in English by Dee Wagner
Coaching World, April 16, 2018, Using Nervous System Science to Understand Motivation: Are Clients Fearful or Shutdown?
https://coachfederation.org/blog/using-nervous-system-science-understand-motivation-clients-fearful-shutdown

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください