【CoachingWorld】コーチのためのエモーショナル・インテリジェンス(こころの知性)活用法

コーチである皆さんは、エモーショナル・インテリジェンス(EI、こころの知性)の話を長年にわたり耳にしてきたことだと思います。世の中には複数のEIモデルがありますが、私が開発したモデルでは自他の感情に気づくことや情動を管理し行動すること、そして周囲の人と上手に対話をすることを提唱しています。EI能力の高い人は、日常はもとより厳しい状況下でさえも感情のバランスを保つことができます。このような人は、人とのやり取りにおいて言葉では表現されていない感情の動きや様々な力関係を汲み取ることができ、仕事やプライベートな関係でポジティブな人間関係を培うことができます。このような能力は、優れたリーダーやチームメンバーには欠かせない要素です。そういう意味では、親としてあるいは配偶者としても同じことがいえるでしょう。

一方で、EIの乏しい人は人生や仕事において苦労することになります。目標達成を難しくさせることはもちろんのこと、他者を効果的に導くことは困難になるでしょう。具体的には、感情の自己管理能力に欠けた人は、直ぐにカッとなり、特にストレスがかかっている時には相手に向かって暴言を吐くことでしょう。また、共感力に乏しいリーダーは、部下と良い関係性を築くことはできません。すなわち、共感力に欠ける人は、誰しも有意義な人間関係を構築できず悪戦苦闘することになります。

下図は、 ケース・ウェスタン・リザーブ大学ウェザーヘッド・スクール・オブ・マネジメントのリチャード・ボヤツィス教授(米国Case Western Reserve University’s Weatherhead School of Management・Richard Boyatzis)と共に開発したEIのフレームワーク、「The Emotional and Social Intelligence Leadership Competencies(リーダーに必要なコンピテンシー:情動知性と社会的知性)」です。このモデルには、4つの領域に則し12のコンピテンシー(能力)が含まれています。これは誰にでも身につけることのできる能力です。この12のコンピテンシー(能力)こそが、優れたリーダーとそうでないリーダーの違いを生み出します。

また、EIはIQ(知能指数)とは異なり簡単に点数で表せるものではありません。包括的なEIプロフアイルを作成するために12のコンピテンシーを横断的に評価しますが、EIを把握するには360度評価の実施が最も適した方法です。本人の自己像とその人と共に働く人々がもつイメージの両面を捉えた360度評価は、多面性のあるEIの評価に適しています。仕事以外にも、時に家族や友人の評価が重要な役割を果たすこともあります。

コーチを職業としていれば、よく知る人からのフィードバックこそが自己の認識と他者から見た自分のギャップを埋めてくれることは理解できるはずです。フィードバックをもらうことによって、自分の強みを特定すると同時に自分の能力や活動の限界を知ることができます。そうすることで、EIを更に鍛えるためにできる事が見えてくるでしょう。自分の強みや限界を正確に理解することは、EIを開発する原動力になります。要するにEIは、不変なものではなく、開発できる能力なのです。

先ずは自分から

先ずは自分のコンピテンシーを育むことから始めることで、クライアントのEIを高めるコーチングが上手くいでしょう。優れたコーチは、自らのEI能力を常に発揮しています。具体的には、難しい状況でも感情のバランスをとり平常心を保っています。また、共感力を用いクライアントの意見や見解を理解し、その人に相応しい的を得たフィードバックをします。優れたコーチは、クライアントが自身の成長につながる可能性に気づけるよう心から支援します。これこそが上図のコンピテンシーにある「コーチとメンター」に欠かせない能力です。

EIの開発に役立つ、簡単にできる練習があります。それは、内省をすることです。ジャーナリング等により内省することで、自分の情動やそれが自分に与える影響に更に気づくことができるようになります。このことは、自己認識や自己管理を含む複数のコンピテンシーにわたり極めて重要です。また、マインドフル瞑想で脳を鍛えることもできます。マインドフル瞑想は、全てのコンピテンシーの基盤となる集中力を養い思考や心の乱れを軽減し、いずれのコンピテンシーを高めるための貴重な資源にもなります。その場、その瞬間にしっかり意識を向けることで、もっと“その場に存在する”ことができ、より良いリーダー、あるいは聴き手になれるでしょう。

コーチングにEIを取り入れ探求する

360度評価やEIを測定するツールは沢山あります。私のお薦めは、360度評価の中でも私とリチャード・ボヤツィス教授がコーン・フェリー社(Korn Ferry Hay Group)と共同開発したESCI-360(Emotional and Social Competency Inventory)です。ESCI-360は、リーダーに必要なEIコンピテンシーの全てを評価できるように開発されたものです。評価結果で出た自己像と他者からのイメージのギャップは、「活用できる情報」として扱い、クライアント自身がどのような成長を望むのかを探求することに役立てることができます。クライアントの目標達成のために役立つコンピテンシーを培うきっかけになることが理想です。

例をあげて見ていきましょう。リーダーの役割を担うにあたり、「セルフアウェアネス(自己認識)」と「セルフマネジメント(自己管理)」の領域は優れているが、「ソーシャルアウェアネス(社会認識)」と「リレーションシップマネジメント(人間関係の管理)」の能力を課題とするクライアントがいるとします。このようなケースは、チームや部下をもたない一般社員として優秀だった人が、チームや部署を任される立場に昇進した場合に多く見られます。それまでうまくいっていた個人の強みは、新しいリーダーの役割では全く通用せず四苦八苦するのです。ソフトウェア開発者として常にトップを走っていた人であっても、優れたチームリーダーになるには「インフルエンス(影響力)」や「コンフリクトマネジメント(衝突・対立の管理)」といったコンピテンシーを身につけることが必要となります。

コーチとしては、アドバイスをするよりも、クライアントが自己認識力を培い、自分の情動、習慣や癖、原動力に気づけるよう支援しましょう。クライアントの思考や行動のパターンに気づいたら、それを共有し親身になって何がそうさせているのか理解できるよう支援してください。いつもの悪い習慣に戻ってしまい、うまく行かない時に失敗してしまったと捉えているクライアントに対し、その出来事を成長のきっかけに転換しクライアントが再び軌道に乗れるよう支援するのです。

EIの基盤である「エモーショナル・セルフアウェアネス(情動の自己認識)」から取り組んでみてください。クライアントは、自分の原動力となる情動と逆に失速させる情動に気づくことでしょう。それによって情動と自分の価値観やビジョンを調和させることができるようになります。クライアントが成長の元となるモチベーションを保ち続けられるかどうかは、自身が意義目的や価値観を発見または再認識できるよう支援するコーチの能力にかかっています。優れたコーチと相手構わずワンパターンのコーチングをするコーチとの違いはここにあります。優秀なコーチは、クライアントと協同し信頼関係を築き、クライアントが目標を実現するために必要なコンピテンシーを習得できるよう支援します。そうすれば、クライアントは自ずと一層の努力をすることでしょう。

EIを開発する上で、有能なコーチが関わることほど効果的な方法はないと思います。目標設定だけではなく、クライアントへ質の高い適切なフィードバックをし、支援できるコーチの能力は、クライアントが長期的な変化を起こし続ける上で根本的な違いを生むことでしょう。優れたコーチからコーチングを受けたクライアントは、たとえコーチング関係が終了した後もEIを活用し、セルフコーチング力にアクセスし自らの道を選択して行くことでしょう。


著者情報
ダニエル・ゴールマン
ダニエル・ゴールマン
心理学者、ベストセラー作家
代表著書『EQ こころの知能指数』(Emotional Intelligence: Why it Can Matter More than IQ
最新の活動:EIの基礎能力に焦点をおいたプログラムをリリース、EIコーチ認定(Emotional Intelligence Coaching Certification)の発行をしている。


【翻訳 松川美保】
Originally written in English by Daniel Goleman
Coaching World, September 10, 2018, How a Coach Works with Emotional Intelligence
https://coachfederation.org/blog/work-with-emotional-intelligence

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