【CoachingWorld】コーチは「問題」の根幹を捕える必要があるか?

クライアントは、しばしば自らに変化をもたらすことを期待してコーチングを求めます。その時、ある領域を「問題」であると自らラベリングし、それに対する解決策をコーチング的なアプローチから得ようとすることがあります。これはコーチに対してカギとなる問題を提示しています:彼らが前に進むために、現在抱えている「問題」をどれだけ掘り起こす必要があるのでしょうか? 別の言い方をすれば、ある人が本当の意味で視野を変え、行動に移していくために、我々コーチは「問題」の根幹を捕える必要があるのでしょうか?

私の体験では、コーチングのクライアントというのはある程度、現在の状況についての掘り起こしを期待していると思います。彼らにとってこの内省的なプロセスは、問題とされる領域の原因となる部分に対して、自らの世界の中で今何が起きているのかを理解し、その根幹を捕えたり、そこに迫ることが出来るものです。間違いなく、コーチの役割の一つはアクティブリスニング的にクライアントに耳を傾けることであり、それにより信頼関係や親密な関係が生まれます。そして、彼らが現在抱えている「問題」をなんとかしようと考える限り、非生産的で堂々巡りな思考に囚われてしまう可能性があるという事実にも、コーチは常に注意していなければなりません。

例えば、あなたの行うコーチング・セッションについて考えてみてください。セッションの中で「問題」の領域についての話を一番大きくとりあげたことはありますか? そこでした質問や質問の順序は、クライアントを上手くサポートし、解決策を見出すことを手助けするどころか、問題をよりもつれさせてはいなかったでしょうか? コーチ・トレーナーとして、私はこうした情景をしばしば見てきました。新人コーチの多くは、人の心を動かすような未来を描くことよりも、問題を特定し解決することにフォーカスしがちなのです。

もちろん人が成長していくために、問題の原因を理解することが必要であるという考えには、理論的な魅力があります。しかし、コーチングでの対話に「問題について話す」というマインドセットで臨むことは、クライアント(そして私たち自身)がストーリーの網に絡め取られてしまう危険性があります。とるにたらない細かなことばかり質問してしまい、問題が何故起きたのか、どうしてこうなってしまったのかということにばかりフォーカスしてしまうという罠に陥ってしまいかねません。こうした話し方は、クライアントをネガティブで不安な状態にさせてしまい、彼らが問題を超えて未来のゴールに向けて視野を広げることを妨げてしまうことを避けられません。

クライアントがポジティブな感情を抱き、カタルシスを開放することも選べる中で、入り組んだ問題についてフォーカスし思索することは、その人が前に進むことを阻んでしまうことにもなり得ます。多くのクライアントは自身が直面している問題についてはすでによく知っているため、問題のみにフォーカスした対話は、彼らの視野を広くすることには繋がりません。逆に、コーチによって投げかけられた質問が挑戦的で、未来の状態を見つけるためのものである程、クライアントが新しいアイデアを創り出す助けになるものです。このプロセスは、彼らにとって自分を変えるきっかけ、あるいは変えずにはいられない動機を作り出すことにも繋がります。

私達はこのような「解決」にフォーカスしたスタイルを用いることにより、クライアントが未来のビジョンを描くのを助け、望む状態と現在の状態との違いを明らかにすることにも役立つことが出来ます。これにより、より高いレベルの当事者意識を感じてもらい、それにより彼らが変化し前に進むためのモチベーションを上げることが出来ます。

とはいえ、問題の根幹を掘り起こす質問を全くしてはいけないということではありません。この質問は、例えば認知行動的なコンテキストでのコーチングにおいて、とても重要になってきます。このアプローチでは、クライアントが物事に適切に対処していくために、現在の状況を理解することが必要です。他にも、過去の挑戦をどう解決したかを明らかにし、次の成功のために活かしたい時などにも有効でしょう。

コーチがこのパラダイムで仕事を出来るようになるためには、いくつかのポイントがあります。一つ目にして最も重要なものとして、優れたコーチは、クライアントがしている話が、前に進むためではない、「問題」についての話なのかどうかを見極めることが出来なくてはいけません。2つ目に、一連の質問を行っていく際、問題について聞く質問が、クライアントのためではなくコーチの好奇心によるものではないかをよく認識しておくことが重要になります。

最後の、そして決定的かもしれないものとして、コーチは、クライアントのサポートのために必要な情報としての問題への理解を手放す必要があります。これを受け入れ、相手の込み入った問題について知らないままクライアントに向き合うことは、最初は非常に勇気のいることでしょう。しかし、そうすることにより、コーチはクライアントの劇的な変化を起こすサポートが行える、よりレベルの高い存在となることが出来るのです。

(c)Smarter Learning Ltd.


著者情報
ジョセフ・グレッチ, ACC
ジョセフ・グレッチは、各国の企業や個人に対してエグゼクティブ、キャリア、ライフ・コーチングを行い、人の可能性を強く信じ、育てている。彼の、一人ひとりを全体的に見ていく手法は彼のコンサルタント会社、Smarter Learning Ltdを支えている。コーチとして、リーダーたちが信頼を勝ち取り、成長し、自身のポテンシャルを使えるようになることを傍で支えている。ジョセフはまた、コーチング業界を育てることにも情熱を注ぎ、ICF認定プログラムのコーチ・トレーナーをすると共に、CIPDやILMの資格も有している。ジョセフについては詳しくは、www.smarter-learning.netへ。


【翻訳 牧野内正雪】
Originally written in English by Joseph Grech, ACC
Coaching World, June 12, 2018, Should We Get to the Root of a Problem?
https://coachfederation.org/blog/root-of-problem

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