【CoachingWorld】心と感情のために、体のエネルギー量と配分(ボディー・バジェット)を考えていますか?

私のクライアント、サラは、6週間のコーチングの間、何の進歩も見られませんでした。彼女の自己評価は低いまま、自身に対してとても批判的であり続け、私もガッカリしてしまいました。それどころか彼女のエネルギーは低く、セッションの間に一緒に決めたことを何一つ出来ないでいます。彼女はその絶望から自分自身を引き上げたいと強く願っていたのに、いったい何がいけなかったのでしょうか?

リサ・フェルドマン・バレット博士は、その著書『How Emotions Are Made』の中で、心の健康のためにはボディー・バジェット(body budget 体のエネルギー量とその配分)という考え方が重要だと述べています。そもそも人間の脳の主な目的は、合理的な決定をすることや感情を働かせることではなく、人間が成長し、生き残り、子孫を残すことです。フェルドマン・バレットはそれをボディー・バジェット―体があなたを生かし、良い状態に保つために、脳は体のエネルギーを予算化し、配分している―というメタファーで解説しています。脳は、体のボディー・バジェットのバランスを保つために、体からの要求を予測し、時には要求が生まれる前に先回りしてでも満たそうとします。私たちが心身(脳と体)を一体のものとして見る必要があるのはこのためです。

“あなたがその心と感情を合理的な思考で制御することができないのは、思考や物の見方自体がボディー・バジェットをベースにしているからなのです”と彼女は述べています。

あなたの「気分(mood)」(心理学的には「情動(affect)」といいます)は、あなたの感情を形成します。「気分」とは、あなたが一日を通して全体的に感じるものです。これは感情(emotion)といった複雑なレベルのものではなく、もっとシンプルな感覚のことです。例えば気分が良いとか、悪いとか、その強度の違いといったような。あなたの「気分」はいつもそこにあり、寝ていても存在しています。「気分」は、単純に体のエネルギーの総量によります。「気分」が落ちている時は、ボディー・バジェットのバランスが崩れているということです。あなたの脳は、体の内外から受け取る感覚を元に、感情的な反応を予測します。「気分」が落ちている時、ボディー・バジェットのバランスは崩れていますから、脳は間違った結論にたどり着き、理想とはほど遠い(時にはむしろ破壊的な)感情を発生させます。

バランスの崩れたボディー・バジェットが間違った感情反応をもたらす例として、「ハングリー(hangry=空腹時のイライラ)」があげられます。オックスフォード英語辞典は「ハングリー」を「空腹のせいで生じる機嫌の乱れ、苛立ち」であると解説しています。私の娘はこの「ハングリー」を感じやすいタイプです。彼女も自分が怒っている訳ではなく、ただ空腹なだけだと理解しています。お腹にものを入れれば彼女の不機嫌は納まりますし、彼女の夫はそのためだけに車にいつもお菓子を積んでいます。私たち家族は「ハングリー」を笑い話にすることが出来ますが、多くの人たちは空腹な時に、あるいは疲れた時に自分たちが非常に不機嫌になっていることに気づいていません。

ボディー・バジェットを整えるには?

脳の主な目的が、あなたを生かし、良い状態に保つためにボディー・バジェットを保つことであることを思い出してください。そのバランスを回復するために最も大事なのは、ヘルシーなものを食べること、運動をすること、十分な睡眠をとることです。特に、効果的なのは食事と睡眠です。コーチとして、私たちは気分が落ちている原因が体にあることに気づかず、クライアントに健康について聞くことも少ないのではないでしょうか?

体の健康は、メンタルと感情の健康にとって重要です。私が教えた相手の中には、子供が寝た後に夫と重要な話し合いをすることがあり、それが大抵上手くいっていないという方がいました。しかし、体のエネルギー配分のことを学んでから、彼女は夫にもそれを伝え、難しい話はお互いがよく休んでから出来る時にスケジュールし直したそうです。

私のクライアント、サラの話に戻しましょう。彼女は砂糖だらけのお菓子と加工食品をよく食べていました。私は彼女が食生活を見直すように勇気づけ、彼女がようやく砂糖を止める出来た時には、彼女の「気分」と自己評価がほんの数日で劇的に高まりました。私たちはようやく良いセッションが出来るようになりました。彼女自身にエネルギーがあるようになったからです。もちろん、一時的には止められてもまた砂糖を口にしたくなってしまうため、彼女の砂糖絶ちも一つの大事なテーマとして取り入れていきました。

クライアントが直面する多くの事柄は、低い情動(例えば、低い自己評価、ストレス、不安など)と結びついています。私たちは「気分」が単純にボディー・バジェットによるものであることを見てきました。つまり、低い「気分」やネガティブな感情は、(少なくともある程度は)身体的な理由によって発生しているのです。私たちはコーチングの際、そのことを心に留めておく必要があります。そして、クライアントがボディー・バジェットのバランスを保つために、よく食べ、適度に運動し、十分に眠るよう勇気づけていくべきです。健康な体なくして、健康なマインドを持つことは出来ないのですから。

(C) Irena O’Brien and The Neuroscience School


著者情報
イリーナ・オブライアン Ph.D.
イリーナ・オブライアン Ph.D.は認知神経科学者であり、コーチや、ヘルスとウェルネスのプロのために神経科学のトレーニングと情報を提供するThe Neuroscience Schoolの創設者。神経科学を分かりやすく読み解き、実践的な実証に基づいたツールと戦略を教えることで、教え子達がそれぞれの実践の場で使えるようにしている。イリーナはボディー・バジェット・トラッカー(The Body Budget tracker)、身体的な健康がどれだけメンタル/感情の健康に紐づいているかのチェックリストなどを開発している。ダウンロードはこちら


【翻訳 牧野内正雪】
Originally written in English by Irena O’Brien
Coaching World, Are You Budgeting for Emotional Intelligence?
https://coachfederation.org/blog/body_budgeting?fbclid=IwAR070QJA9RnEM_Q9VEkCX_bEFL4L0Kglq7OfKl7kdYoyzqKlHUj1etUWcbk

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